飲茶・点心

大きな丸いテーブルが、盛大にセイロで埋め尽くされ、いろんな点心が次々と目の前に回ってくる。どれにしようかな、と迷いながら箸をのばす。蒸しあがったばかりの点心を、ハフハフ言いながら頬張る。・・・この感じがたまらないのですよ~!


香港では、週末毎にいろいろなグループの友人たちと飲茶をしていました。どの香港人にも必ず共通していて、毎回感動するのは、広東語の会話がわからない私のことも「異質なもの」扱いすることなく、その輪の中にいる存在自体をただただ自然に受け入れてくれる姿勢。私の香港生活が最高に居心地よかったのは、そんな彼らの寛容さのおかげです。

飲茶の位置づけ

香港と言えば、飲茶の習慣。

大勢で賑やかに円卓を囲み、次々に運ばれてくる点心を楽しみます。

 

ちなみに、飲茶は昼間の食文化(夜は食べません)。日本だとお酒を飲みながらのディナーが多い取引先接待や同僚との懇親も、香港だと飲茶ランチに誘うのが一般的。

 

平日昼間にお酒抜きで済むおつきあいは、お互いに気軽ですし、健康的で助かります。

飲茶は気軽なコミュニケーションの場

香港の日常生活の中で、とにかく深く浸透している飲茶の習慣。平日の昼間は同僚や取引先と、土日の昼は家族や友人と、ある程度のまとまった人数で「ランチしましょう」といえば、デフォルトで想定されるのが飲茶です。

レストランは、おしゃべりに興じる香港の人々で賑やかです。店内の他のテーブルが賑やかなため、自分たちの会話の声がかき消されないように、こちらも負けじと声が大きくなり、結果、店中が喧噪に包まれるという、とてもエネルギッシュな空間でもあります。

必然的に、じっくりと深刻な話をするには向かない雰囲気となりますが、おしゃべりや軽い情報交換といった、気軽で気楽なコミュニケーションの場として活用されます。

お客様を迎え入れる場

また、飲茶のテーブルはお客様を寛容に迎え入れる場・人脈を広げる場としても機能します。

友達から飲茶に誘われて行ったところ、友人家族の集まる飲茶のテーブルに一緒に招き入れられたり、知っている友人同士の集まりだと思っていたら、別の友人を同伴してくる人がいたり、といったこともよくあります。

慣れないとびっくりしますが、このように自分の知人・友人・家族を他の人たちにも紹介する、紹介されたら気さくに受け入れる、というカジュアルな社交機能を併せ持つのが飲茶のカルチャーなのです。

お店に着いたら

朝からお店の前に人だかり。飲茶のテーブルの順番待ちをする人たちです。到着した人から順番に、お店の入り口で番号が書かれた紙を受け取り、呼ばれるまで辛抱強く待つのが一般的です。

日本ではお花見の場所取りに苦労しますが、香港では飲茶のテーブル確保に並ぶことが日常茶飯事。混雑しているため、お店から相席を頼まれることもよくあります。

家族・同僚・友人と飲茶をするときには、誰かが並ぶ役を引き受け、待ち合わせ時間より先にレストランに行くようにします。

人気のレストランに限らず、どのお店でも一般的にみられる現象なので、飲茶する時には時間に余裕をもって行きましょう。

テーブルについたら

飲茶の前に、お茶で食器を洗いましょう

香港で飲茶をするときには、まず初めに「洗碗」と呼ばれる儀式があります。テーブルに置かれた、茶碗・レンゲ・湯呑・箸を、急須のお茶で各自が洗うのです。

①まず湯呑にお茶を入れ、その中でレンゲを洗います。
②次にレンゲでお茶をすくって、立てたお箸を伝うように上からお茶をかけて洗っていきます。
③さらに、急須のお茶を茶碗にあけて、その中で湯呑を転がすようにじゃぶじゃぶ洗います(写真のように)。
④お皿は、洗っても洗わなくても構いませんが、洗う場合は、このお茶碗のお湯を最後にかけ流します。
⑤洗い終わったら、テーブルの上に置かれた少し大きめのボウルや鉢にお茶を捨てます。
⑥最後にお茶碗はお皿の上に戻し、湯呑みには新たにお茶を注いで、食事を開始します。

もちろん、テーブルクロスはこの時点で結構濡れますが、それは気にしなくてもOKです。

ちなみに、テーブル上の点心を自分のところに取り分ける時には、お皿の上に直接のせず、お皿の上に載せた茶碗にとります。そして、呑み込めない骨などは、口から出したらお茶碗の下にあるお皿の上にそっと置きましょう。


点心のメニューと注文用紙

飲茶のテーブルに置いてある紙。これは点心のメニューと注文用紙を兼ねた「点心紙」です。

いわゆる冊子のようなメニューがテーブルにあっても、昼間しか扱わない点心は通常そこに載っていません。では、何を見て選んだらよいかというと、この点心紙なのです。

同じくテーブルに置いてある鉛筆で、食べたい点心の名前の横に印をつけ、店員さんへ渡します。

一皿づつでよければチェックマーク(☑)だけでも良いですが、大勢で食べるのに、たとえば焼売を2セイロ注文したければ、「2」と数量を書き込みます。

追加で注文したい時には、新しい点心紙に同様に印をつけて、店員さんへ渡しましょう。

英語が併記されていることもありますが、大抵は漢字のみ。食べたい点心の名前をすぐに見つけられるようになったら上級者です。


マナー

お茶を注いでもらった時の「ありがとう」は

香港で中華料理を食べている最中に、誰かからお茶を注いでもらったら、必ずあるジェスチャーをします。

まず、お茶碗のそばに、人差し指と中指を揃えて置き、
次に「トントントン」とテーブルを指先で軽くたたきます。

知らずに遭遇すると「なにをイライラしているんだろう?」と誤解しかねない、この動作。実は、「ありがとう」のサインなのです!

この間、隣の人とおしゃべりに夢中になっていてもOKですが、視界の隅でお茶を注いでもらっていることを認識したならば、必ず指先でこの「お礼」をしてくださいね。

条件反射的にすばやく反応できるようになったら、あなたの”香港度”はかなり高いと言えるでしょう。

 

ティーポットが空になったら

中華料理には、やはり中国茶が合いますね。

ところで、ティーポットが空になってしまったら、店員さんにお願いし、お湯を注ぎ足してもらいます。その際、声をかけてももちろんOKですが、実は、あるサインで事足ります。

そのサインとは「急須の蓋をずらしておく」こと。写真のようにしておくと、それに気づいた店員さんがお湯を並々と注いでくれます。
 
大勢が集う円卓には、たいていお茶と白湯の二種類のティーポットが最初から運ばれてきます。時間が経ってお茶が濃くなりすぎたら、白湯を注して薄めましょう。

日本茶や紅茶と違い、中国茶は何回お湯を注いでも味を楽しむことが出来ますので、ぜひこのサインを活用してくださいね。


点心の種類

蝦餃(エビ蒸し餃子)

点心で定番中の定番といえば、蝦餃(エビ蒸し餃子)。香港人と飲茶に行くと、黙っていても同席者の誰かが必ず人数分注文してくれます。それほど、地元の人々にとって「食べて当然」な一品です。


蒸しあがったばかりの蒸籠。蓋をあけると、もっちりとした皮に包まれた、うっすら透けて見える蝦色が食欲をそそります。ほおばった途端、ギュッと引き締まってプリップリの歯ごたえと、噛みしめた途端にじゅわっと広がる旨味が堪りません~!


しっかりした味がついていますから、醤油などかけず、そのまま食べてみてくださいね。

豉汁蒸排骨

点心の一つ、「豉汁蒸排骨(スペアリブの豆豉蒸し)」。ご覧のとおり、つやっつやなスペアリブの蒸し物です。

 

一口大の骨付き豚肉は、そのまま頬張れる大きさ。お肉は柔らかくてふっくら。じゅわーっとした肉汁とともに、ニンニクの香りと豆鼓の味が口の中に広がります。

 

ここで味を引き締める働きをしているのが唐辛子。ただし、辛いというほどインパクトはなく、完璧な脇役に徹するさじ加減も絶妙です。

 

ところで、密かに困るのは食べ終わった骨の処理。各自の食器は平皿の上にお茶碗を乗っけたセッティングが基本ですが、骨はそのお茶碗の足元=皿の上にそのまま置けばOKですよ。

炸饅頭

シンプル・地味ながら外せない点心のひとつ、「炸饅頭」。


小麦粉の生地で作った中華蒸しパンを、表面がきつね色になるように油で揚げてあります。これにコンデンスミルクを付けていただくというもの。中に具は入っていません。


皮の部分はサクサク、かじると中はフカフカ。饅頭の味自体は強い主張がないのですが、この食感にねっとりと絡んだ甘いコンデンスミルクとのハーモニーは、もはや反則でしょ~、というほどに絶妙!


特にコンデンスミルク好きにとっては「こんな組み合わせもあり?!」と嬉しくなる、目からウロコの一品。幸せな溜息のでる至福の瞬間となること請け合いです♡

蘿蔔絲酥餅

大根パイ、「蘿蔔絲酥餅」。

見た目も美しい層になったパイ皮は、空気感が軽やかでサクサク。その中の具は、千切りの大根がトロトロになった状態で入っています。

大根餡だけのものもあれば、大根にお肉や椎茸が混ざっている場合もあります。いずれにしても、大根のほのかな甘みが上品に引き立つ、優しい味わいのおかず系点心です。

繊細で美しい外見に見合ったマイルドな味。点心に性別があるとしたら、間違いなく女性的な一品ですね。

糯米雞/珍珠雞

「糯米雞」または「珍珠雞」という、この点心。鶏肉や豚肉の入ったおこわです。

セイロの中に、蓮の葉に包まれて蒸された状態で運ばれてきます。包みを開けるように葉を広げると、蓮の香りをさわやかに漂わせた、このおこわごはんが中からあらわれます。具には、しっかりした味付けの鶏肉や豚肉、ニンニク、椎茸、塩漬けの黄身などが入っています。

中華スパイスの効いた具の旨味と、蓮の葉の香りの染み込んだおこわ。味もボリュームもしっかりした一品です。

お腹にたまるので、お箸や手元のレンゲで割って、シェアしながら食べましょう。

咸水角

こちらもレギュラーな点心「咸水角」。日本ではなかなか見かけないのが残念です。

揚げ餅団子とか、中華ピロシキなんていう呼ばれ方もしているみたいですが、どちらもちょっとずつ正解(笑)。

皮は米粉でもちもち、中には甘辛く味付けした豚肉やエビなどのトロッとした具が詰まっています。それを油でカラッと揚げたもの。写真のようにぷっくりと膨らんだ状態で出てきます。

外側のサクサク感と内側のモチモチ感のコンビネーションが楽しい皮にはほんのり甘味があり、具のとろみ&旨味とのハーモニーが美味しい一品です。

ちなみに、これを誰かと半分にシェアしたいとき、お箸だとモチモチした皮をきれいに割ることができません。そんな時は店員さんに、切ってくださいとお願いしましょう。ハサミを取り出して、上から半分にジョッキンと切ってくれます!

 

潮州蒸粉果

日本ではあまり見かけることのできない点心「潮州蒸粉果」。潮州とは広東省にある地域の名前です。

お米の粉で作った皮は、蒸されてモチモチとしています。うっすらと透けて見える中の具は、野菜がメイン。ピーナツ、エビ、クワイ、青ネギ、椎茸、それに豚肉が少し入ります。

これは、とにかく食感が楽しい一品。皮のモチモチ感にくるまれた、ピーナツのコリコリ感と、クワイのシャキシャキ感のトライアングルなバランスをお楽しみください♪

ちなみに、具にはしっかりとした味がついているので、何もつけずに食べてみてくださいね。

蘿蔔糕(=大根餅)

点心の中でもポピュラーなものの一つが、「蘿蔔糕(ダイコン餅)」。

非常にざっくりいうと、おろした大根に、上新粉、中華ソーセージ、干しエビ、干し椎茸などを混ぜて、蒸した後に煎ったものです。大根で出来ているとはいっても、本来の食感や味が思い出せないほどに別物に変化しているところが面白い一品。中華ソーセージ、干しエビ、椎茸などからの旨味が、それはもう濃厚に凝縮されているのがたまりません!

ちなみに、日本の中華料理店で大根餅を食べてみると、香港で食べるより水分が多くて柔らかく、また甘いように感じます。これはおそらく、日本の大根で作るからでしょう。

香港で売られている大根は、見た目は日本のそれと似ていますが、水分がやや少なめで、辛いのです。

腸粉

最もポピュラーな点心の一つ、「腸粉」。香港人と飲茶に行ったら、必ず誰かがオーダーする料理です。

原料はうるち米の粉。米粉の蒸しクレープ、といったらイメージできるでしょうか。

米粉の皮でくるんである具材には、蝦や豚肉、牛肉などが一般的です。その上から、オイスターソースや醤油ベースのタレをかけていただきます。

シンプルな点心なので、どこのお店でも同じような味になりがち。そこでお店ごとの個性を密かに発揮する要素といえば、やはりタレ。

私のこれまでの経験では、こだわっていないお店のタレは化学調味料入りの汎用品、こだわりのお店だと自然の旨味が複雑に絡んだシェフ秘伝のタレが出てきます。私は密かに、この腸粉のタレで飲茶レストランを独自に格付けしています(笑)。

ちなみに、「腸」という字がつくのは、見た目が豚の腸のようだから・・・という理由。実際には腸ではありませんので、ご安心を。

小龍包

小龍包。これほどデリケートな点心は他にないでしょう(断言)。

旅行客の皆さんがやってしまいがちな失敗は、箸で持ち上げるときに皮を破いてしまい、中のスープが漏れてしまうというもの。あぁ~~、もったいない!

そこで、失敗しない食べ方をご説明します。
①レンゲに、黒酢と千切り生姜を載せます。...
②そのレンゲで、小龍包をセイロまで「お迎え」に行きます。
③小龍包をそっと持ち上げ、すばやくレンゲに移します。
④レンゲの上の小龍包は熱いので、まずはてっぺんをお箸で開くか、ちょっとかじりとります。
⑤ほんの少し熱さを逃し、舌をやけどしない程度に冷ましたら、中のスープを飲みます。
⑥黒酢・生姜とともに本体をいただきます。

とにかく、小龍包は中のスープが美味しさの命。

ポイントは、まだ熱いうちに小龍包をつまみ上げること。時間が経つと、中のスープがじわじわと流れて無くなってしまったり、皮がセイロにこびりついて、持ち上げる時に破れてしまいます。
また、皮を破らないようにするためには、セイロからレンゲまでの移動距離をいかに短くするかが命運を分けます!

いろいろと長年の試行錯誤の結果、これが小龍包を一番効果的に味わう方法だと自負しています。お試しくださいね。

流沙包

デザート系点心の中で、私の大好物の一つ「流沙包」。
ご覧のとおり、蒸したアツアツのお饅頭の中に、黄色いカスタード餡が、トロ~リ♪

点心の定番「奶皇包」もカスタード餡のお饅頭で、非常に似ています。が、最大の違いは、このカスタード餡が、割った途端に流れ出してくるかどうか!・・・いいですか、ここがポイントです。濃厚なカスタード餡が、マグマのごとく流れ出してくるんですよ!!

写真だけだとピンとこないかもしれませんが、一度味わってみると、この興奮がきっとご理解いただけるものと思います。食べるタイミングは、テーブルに運ばれて来たらすぐ!蒸したての熱いうちじゃないと、中のカスタード餡が固まってしまい、流れてきません!舌がやけどしないように気を付けながら、召し上がってくださいね。

焼売

一番人気の点心は、やっぱり焼売!飲茶では必ず食べる一品です。

 

日本の焼売は白い皮に緑のグリーンピースという配色が一般的です。それに対して香港の焼売は、写真のように黄色い皮につつまれ、トップにはトビコのオレンジが鮮やか。皮が黄色いのは卵が使われているからです。暖色系の配色が、ますます食欲をそそりますね。

 

違うのは外見だけではありません。豚肉に玉ねぎという餡が一般的な日本の焼売に対して、香港の焼売は豚肉と蝦を混ぜた餡ですので、モチモチのプリプリ♪ それだけでも美味しいのに、さらに椎茸も配合されていて、噛んだとたんに旨味のハーモニーがじゅわ~っと口の中に広がるのです!


下味もしっかりついていますので、醤油などつけずに、まずはそのまま味わってみてくださいね。

叉焼包

最もポピュラーなお饅頭系点心の定番といえば、やはり「叉焼包(チャーシュー饅)」。ほんのり甘みのある白い生地は、キメが細かいながらも、ふわっとした食感。膨らんではじけるように開いたお饅頭から顔をのぞかせている具が、チャーシュー餡です。
 
日本でチャーシューといえば煮豚のことですが、香港では蜂蜜を塗って炙り焼きにした豚肉のこと。それが甘辛い味付けのトロトロな餡となって、中にぎっしりと詰まっています。甘辛さにコクと深みの加わった味わいに仕上げるため、隠し味として投入されているのは、なんとオイスターソース!
 

 

この餡と白い饅頭生地との相性が絶妙なのです。蒸し上がったばかりのセイロに入ったアツアツの叉焼包。手で半分に割って、はふはふしながら頬張ってみてくださいね!